坊っちゃん - 【一】 - 《16》
商買をしたって面倒《めんど》くさくって旨《うま》く出来るものじゃなし、ことに六百円の金で商買らしい商買がやれる訳でもなかろう。
よしやれるとしても、今のようじゃ人の前へ出て教育を受けたと威張れないからつまり損になるばかりだ。
資本などはどうでもいいから、これを学資にして勉強してやろう。
六百円を三に割って一年に二百円ずつ使えば三年間は勉強が出来る。
三年間一生懸命にやれば何か出来る。
それからどこの学校へはいろうと考えたが、学問は生来《しょうらい》どれもこれも好きでない。
ことに語学とか文学とか云うものは真平《まっぴら》ご免《めん》だ。
新体詩などと来ては二十行あるうちで一行も分らない。
どうせ嫌いなものなら何をやっても同じ事だと思ったが、幸い物理学校の前を通り掛《かか》ったら生徒募集の広告が出ていたから、何も縁だと思って規則書をもらってすぐ入学の手続きをしてしまった。
今考えるとこれも親譲りの無鉄砲から起《おこ》った失策だ。