坊っちゃん - 【四】 - 《52》
生徒の言草《いいぐさ》もちょっと聞いた。
追って処分するまでは、今まで通り学校へ出ろ。
早く顔を洗って、朝飯を食わないと時間に間に合わないから、早くしろと云って寄宿生をみんな放免《ほうめん》した。
手温《てぬ》るい事だ。
おれなら即席《そくせき》に寄宿生をことごとく退校してしまう。
こんな悠長《ゆうちょう》な事をするから生徒が宿直員を馬鹿にするんだ。
その上おれに向って、あなたもさぞご心配でお疲れでしょう、今日はご授業に及《およ》ばんと云うから、おれはこう答えた。
「いえ、ちっとも心配じゃありません。
こんな事が毎晩あっても、命のある間は心配にゃなりません。
授業はやります、一晩ぐらい寝なくって、授業が出来ないくらいなら、頂戴《ちょうだい》した月給を学校の方へ割戻《わりもど》します」校長は何と思ったものか、しばらくおれの顔を見つめていたが、しかし顔が大分はれていますよと注意した。
なるほど何だか少々重たい気がする。
その上べた一面|痒《かゆ》い。
蚊がよっぽと刺《さ》したに相違ない。
おれは顔中ぼりぼり掻《か》きながら、顔はいくら膨《は》れたって、口はたしかにきけますから、授業には差し支《つか》えませんと答えた。
校長は笑いながら、大分元気ですねと賞《ほ》めた。
実を云うと賞めたんじゃあるまい、ひやかしたんだろう。