坊っちゃん - 【九】 - 《155》
野だ公は恭しく校長の前へ出て盃《さかずき》を頂いてる。
いやな奴だ。
うらなり君は順々に献酬《けんしゅう》をして、一巡周《いちじゅんめぐ》るつもりとみえる。
はなはだご苦労である。
うらなり君がおれの前へ来て、一つ頂戴致しましょうと袴のひだを正して申し込まれたから、おれも窮屈にズボンのままかしこまって、一|盃《ぱい》差し上げた。
せっかく参って、すぐお別れになるのは残念ですね。
ご出立《しゅったつ》はいつです、是非浜までお見送りをしましょうと云ったら、うらなり君はいえご用|多《おお》のところ決してそれには及《およ》びませんと答えた。
うらなり君が何と云ったって、おれは学校を休んで送る気でいる。