坊っちゃん - 【二】 - 《27》
四つ角を二三度曲がったらすぐ門の前へ出た。
門から玄関《げんかん》までは御影石《みかげいし》で敷《し》きつめてある。
きのうこの敷石の上を車でがらがらと通った時は、無暗《むやみ》に仰山《ぎょうさん》な音がするので少し弱った。
途中から小倉《こくら》の制服を着た生徒にたくさん逢《あ》ったが、みんなこの門をはいって行く。
中にはおれより背が高くって強そうなのが居る。
あんな奴を教えるのかと思ったら何だか気味が悪《わ》るくなった。
名刺《めいし》を出したら校長室へ通した。
校長は薄髯《うすひげ》のある、色の黒い、目の大きな狸《たぬき》のような男である。
やにもったいぶっていた。
まあ精出して勉強してくれと云って、恭《うやうや》しく大きな印の捺《おさ》った、辞令を渡《わた》した。
この辞令は東京へ帰るとき丸めて海の中へ抛り込《こ》んでしまった。
校長は今に職員に紹介《しょうかい》してやるから、一々その人にこの辞令を見せるんだと云って聞かした。
余計な手数だ。
そんな面倒《めんどう》な事をするよりこの辞令を三日間職員室へ張り付ける方がましだ。