坊っちゃん - 【一】 - 《7》
おやじは何にもせぬ男で、人の顔さえ見れば貴様は駄目《だめ》だ駄目だと口癖のように云っていた。
何が駄目なんだか今に分らない。
妙《みょう》なおやじがあったもんだ。
兄は実業家になるとか云ってしきりに英語を勉強していた。
元来女のような性分で、ずるいから、仲がよくなかった。
十日に一遍《いっぺん》ぐらいの割で喧嘩《けんか》をしていた。
ある時|将棋《しょうぎ》をさしたら卑怯《ひきょう》な待駒《まちごま》をして、人が困ると嬉《うれ》しそうに冷やかした。
あんまり腹が立ったから、手に在った飛車を眉間《みけん》へ擲《たた》きつけてやった。
眉間が割れて少々血が出た。
兄がおやじに言付《いつ》けた。
おやじがおれを勘当《かんどう》すると言い出した。