坊っちゃん - 【二】 - 《31》
県庁も見た。
古い前世紀の建築である。
兵営も見た。
麻布《あざぶ》の聯隊《れんたい》より立派でない。
大通りも見た。
神楽坂《かぐらざか》を半分に狭くしたぐらいな道幅《みちはば》で町並《まちなみ》はあれより落ちる。
二十五万石の城下だって高の知れたものだ。
こんな所に住んでご城下だなどと威張《いば》ってる人間は可哀想《かわいそう》なものだと考えながらくると、いつしか山城屋の前に出た。
広いようでも狭いものだ。
これで大抵《たいてい》は見尽《みつく》したのだろう。
帰って飯でも食おうと門口をはいった。
帳場に坐《すわ》っていたかみさんが、おれの顔を見ると急に飛び出してきてお帰り……と板の間へ頭をつけた。
靴《くつ》を脱《ぬ》いで上がると、お座敷《ざしき》があきましたからと下女が二階へ案内をした。
十五|畳《じょう》の表二階で大きな床《とこ》の間《ま》がついている。
おれは生れてからまだこんな立派な座敷へはいった事はない。
この後いつはいれるか分らないから、洋服を脱いで浴衣《ゆかた》一枚になって座敷の真中《まんなか》へ大の字に寝てみた。
いい心持ちである。