坊っちゃん - 【三】 - 《34》
初めて教場へはいって高い所へ乗った時は、何だか変だった。
講釈をしながら、おれでも先生が勤まるのかと思った。
生徒はやかましい。
時々|図抜《ずぬ》けた大きな声で先生と云《い》う。
先生には応《こた》えた。
今まで物理学校で毎日先生先生と呼びつけていたが、先生と呼ぶのと、呼ばれるのは雲泥《うんでい》の差だ。
何だか足の裏がむずむずする。
おれは卑怯《ひきょう》な人間ではない。
臆病《おくびょう》な男でもないが、惜《お》しい事に胆力《たんりょく》が欠けている。
先生と大きな声をされると、腹の減った時に丸の内で午砲《どん》を聞いたような気がする。
最初の一時間は何だかいい加減にやってしまった。
しかし別段困った質問も掛《か》けられずに済んだ。
控所《ひかえじょ》へ帰って来たら、山嵐がどうだいと聞いた。
うんと単簡に返事をしたら山嵐は安心したらしかった。