坊っちゃん - 【四】 - 《42》
但《ただ》し狸《たぬき》と赤シャツは例外である。
何でこの両人が当然の義務を免《まぬ》かれるのかと聞いてみたら、奏任待遇《そうにんたいぐう》だからと云う。
面白くもない。
月給はたくさんとる、時間は少ない、それで宿直を逃《の》がれるなんて不公平があるものか。
勝手な規則をこしらえて、それが当《あた》り前《まえ》だというような顔をしている。
よくまああんなにずうずうしく出来るものだ。
これについては大分不平であるが、山嵐《やまあらし》の説によると、いくら一人《ひとり》で不平を並《なら》べたって通るものじゃないそうだ。
一人だって二人《ふたり》だって正しい事なら通りそうなものだ。
山嵐は might is right という英語を引いて説諭《せつゆ》を加えたが、何だか要領を得ないから、聞き返してみたら強者の権利と云う意味だそうだ。
強者の権利ぐらいなら昔《むかし》から知っている。
今さら山嵐から講釈をきかなくってもいい。
強者の権利と宿直とは別問題だ。
狸や赤シャツが強者だなんて、誰《だれ》が承知するものか。
議論は議論としてこの宿直がいよいよおれの番に廻《まわ》って来た。
一体|疳性《かんしょう》だから夜具蒲団《やぐふとん》などは自分のものへ楽に寝ないと寝たような心持ちがしない。
小供の時から、友達のうちへ泊《とま》った事はほとんどないくらいだ。
友達のうちでさえ厭《いや》なら学校の宿直はなおさら厭だ。
厭だけれども、これが四十円のうちへ籠《こも》っているなら仕方がない。
我慢《がまん》して勤めてやろう。