坊っちゃん - 【四】 - 《43》
宿直部屋は教場の裏手にある寄宿舎の西はずれの一室だ。
ちょっとはいってみたが、西日をまともに受けて、苦しくって居たたまれない。
田舎《いなか》だけあって秋がきても、気長に暑いもんだ。
生徒の賄《まかない》を取りよせて晩飯を済ましたが、まずいには恐《おそ》れ入《い》った。
よくあんなものを食って、あれだけに暴れられたもんだ。
それで晩飯を急いで四時半に片付けてしまうんだから豪傑《ごうけつ》に違《ちが》いない。
飯は食ったが、まだ日が暮《く》れないから寝《ね》る訳に行かない。
ちょっと温泉に行きたくなった。
宿直をして、外へ出るのはいい事だか、悪《わ》るい事だかしらないが、こうつくねんとして重禁錮《じゅうきんこ》同様な憂目《うきめ》に逢《あ》うのは我慢の出来るもんじゃない。
始めて学校へ来た時当直の人はと聞いたら、ちょっと用達《ようたし》に出たと小使《こづかい》が答えたのを妙《みょう》だと思ったが、自分に番が廻《まわ》ってみると思い当る。
出る方が正しいのだ。
おれは小使にちょっと出てくると云ったら、何かご用ですかと聞くから、用じゃない、温泉へはいるんだと答えて、さっさと出掛《でか》けた。
赤手拭《あかてぬぐい》は宿へ忘れて来たのが残念だが今日は先方で借りるとしよう。