坊っちゃん - 【五】 - 《60》
おれにはよく聞《きこ》えない、また聞きたくもない。
おれは空を見ながら清《きよ》の事を考えている。
金があって、清をつれて、こんな奇麗《きれい》な所へ遊びに来たらさぞ愉快だろう。
いくら景色がよくっても野だなどといっしょじゃつまらない。
清は皺苦茶《しわくちゃ》だらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たって恥《は》ずかしい心持ちはしない。
野だのようなのは、馬車に乗ろうが、船に乗ろうが、凌雲閣《りょううんかく》へのろうが、到底寄り付けたものじゃない。
おれが教頭で、赤シャツがおれだったら、やっぱりおれにへけつけお世辞を使って赤シャツを冷《ひや》かすに違いない。
江戸っ子は軽薄《けいはく》だと云うがなるほどこんなものが田舎巡《いなかまわ》りをして、私《わたし》は江戸っ子でげすと繰り返していたら、軽薄は江戸っ子で、江戸っ子は軽薄の事だと田舎者が思うに極まってる。
こんな事を考えていると、何だか二人がくすくす笑い出した。
笑い声の間に何か云うが途切《とぎ》れ途切れでとんと要領を得ない。
「え? どうだか……」「……全くです……知らないんですから……罪ですね」「まさか……」「バッタを……本当ですよ」