坊っちゃん - 【六】 - 《84》
実を云うと、この男の次へでも坐《す》わろうかと、ひそかに目標《めじるし》にして来たくらいだ。
校長はもうやがて見えるでしょうと、自分の前にある紫《むらさき》の袱紗包《ふくさづつみ》をほどいて、蒟蒻版《こんにゃくばん》のような者を読んでいる。
赤シャツは琥珀《こはく》のパイプを絹ハンケチで磨《みが》き始めた。
この男はこれが道楽である。
赤シャツ相当のところだろう。
ほかの連中は隣り同志で何だか私語《ささや》き合っている。
手持無沙汰《てもちぶさた》なのは鉛筆《えんぴつ》の尻《しり》に着いている、護謨《ゴム》の頭でテーブルの上へしきりに何か書いている。
野だは時々山嵐に話しかけるが、山嵐は一向応じない。
ただうん[#「うん」に傍点]とかああ[#「ああ」に傍点]と云うばかりで、時々|怖《こわ》い眼をして、おれの方を見る。
おれも負けずに睨《にら》め返す。