坊っちゃん - 【六】 - 《86》
こう校長が何もかも責任を受けて、自分の咎《とが》だとか、不徳だとか云うくらいなら、生徒を処分するのは、やめにして、自分から先へ免職《めんしょく》になったら、よさそうなもんだ。
そうすればこんな面倒《めんどう》な会議なんぞを開く必要もなくなる訳だ。
第一常識から云《い》っても分ってる。
おれが大人しく宿直をする。
生徒が乱暴をする。
わるいのは校長でもなけりゃ、おれでもない、生徒だけに極《きま》ってる。
もし山嵐が煽動《せんどう》したとすれば、生徒と山嵐を退治《たいじ》ればそれでたくさんだ。
人の尻《しり》を自分で背負《しょ》い込《こ》んで、おれの尻だ、おれの尻だと吹き散らかす奴が、どこの国にあるもんか、狸でなくっちゃ出来る芸当じゃない。
彼《かれ》はこんな条理《じょうり》に適《かな》わない議論を吐《は》いて、得意気に一同を見廻した。
ところが誰も口を開くものがない。
博物の教師は第一教場の屋根に烏《からす》がとまってるのを眺《なが》めている。
漢学の先生は蒟蒻版《こんにゃくばん》を畳《たた》んだり、延ばしたりしてる。
山嵐はまだおれの顔をにらめている。
会議と云うものが、こんな馬鹿気《ばかげ》たものなら、欠席して昼寝でもしている方がましだ。