坊っちゃん - 【六】 - 《90》
「私は徹頭徹尾反対です……」と云ったがあとが急に出て来ない。
「……そんな頓珍漢《とんちんかん》な、処分は大嫌《だいきら》いです」とつけたら、職員が一同笑い出した。
「一体生徒が全然|悪《わ》るいです。
どうしても詫《あや》まらせなくっちゃ、癖になります。
退校さしても構いません。
……何だ失敬な、新しく来た教師だと思って……」と云って着席した。
すると右隣りに居る博物が「生徒がわるい事も、わるいが、あまり厳重な罰などをするとかえって反動を起していけないでしょう。
やっぱり教頭のおっしゃる通り、寛な方に賛成します」と弱い事を云った。
左隣の漢学は穏便説《おんびんせつ》に賛成と云った。
歴史も教頭と同説だと云った。
忌々《いまいま》しい、大抵のものは赤シャツ党だ。
こんな連中が寄り合って学校を立てていりゃ世話はない。
おれは生徒をあやまらせるか、辞職するか二つのうち一つに極めてるんだから、もし赤シャツが勝ちを制したら、早速うちへ帰って荷作りをする覚悟《かくご》でいた。
どうせ、こんな手合《てあい》を弁口《べんこう》で屈伏《くっぷく》させる手際はなし、させたところでいつまでご交際を願うのは、こっちでご免だ。
学校に居ないとすればどうなったって構うもんか。
また何か云うと笑うに違いない。
だれが云うもんかと澄《すま》していた。