坊っちゃん - 【七】 - 《111》
待ち合せた連中はぞろぞろ吾《わ》れ勝《がち》に乗り込む。
赤シャツはいの一号に上等へ飛び込んだ。
上等へ乗ったって威張れるどころではない、住田《すみた》まで上等が五銭で下等が三銭だから、わずか二銭違いで上下の区別がつく。
こういうおれでさえ上等を奮発《ふんぱつ》して白切符を握《にぎ》ってるんでもわかる。
もっとも田舎者はけちだから、たった二銭の出入でもすこぶる苦になると見えて、大抵《たいてい》は下等へ乗る。
赤シャツのあとからマドンナとマドンナのお袋が上等へはいり込んだ。
うらなり君は活版で押《お》したように下等ばかりへ乗る男だ。
先生、下等の車室の入口へ立って、何だか躊躇《ちゅうちょ》の体《てい》であったが、おれの顔を見るや否や思いきって、飛び込んでしまった。
おれはこの時何となく気の毒でたまらなかったから、うらなり君のあとから、すぐ同じ車室へ乗り込んだ。
上等の切符で下等へ乗るに不都合はなかろう。