坊っちゃん - 【八】 - 《122》
赤シャツは一人ものだが、教頭だけに下宿はとくの昔《むかし》に引き払《はら》って立派な玄関《げんかん》を構えている。
家賃は九円五|拾銭《じっせん》だそうだ。
田舎《いなか》へ来て九円五拾銭払えばこんな家へはいれるなら、おれも一つ奮発《ふんぱつ》して、東京から清を呼び寄せて喜ばしてやろうと思ったくらいな玄関だ。
頼むと云ったら、赤シャツの弟が取次《とりつぎ》に出て来た。
この弟は学校で、おれに代数と算術を教わる至って出来のわるい子だ。
その癖渡《くせわた》りものだから、生れ付いての田舎者よりも人が悪《わ》るい。