坊っちゃん - 【八】 - 《125》
今より重大な責任と云えば、数学の主任だろうが、主任は山嵐だから、やっこさんなかなか辞職する気遣《きづか》いはない。
それに、生徒の人望があるから転任や免職《めんしょく》は学校の得策であるまい。
赤シャツの談話はいつでも要領を得ない。
要領を得なくっても用事はこれで済んだ。
それから少し雑談をしているうちに、うらなり君の送別会をやる事や、ついてはおれが酒を飲むかと云う問や、うらなり先生は君子で愛すべき人だと云う事や――赤シャツはいろいろ弁じた。
しまいに話をかえて君俳句をやりますかと来たから、こいつは大変だと思って、俳句はやりません、さようならと、そこそこに帰って来た。
発句《ほっく》は芭蕉《ばしょう》か髪結床《かみいどこ》の親方のやるもんだ。
数学の先生が朝顔やに釣瓶《つるべ》をとられてたまるものか。