坊っちゃん - 【八】 - 《128》
「ほん当にお気の毒じゃな、もし」
「お気の毒だって、好んで行くんなら仕方がないですね」
「好んで行くて、誰がぞなもし」
「誰がぞなもしって、当人がさ。
古賀先生が物数奇に行くんじゃありませんか」
「そりゃあなた、大違いの勘五郎《かんごろう》ぞなもし」
「勘五郎かね。
だって今赤シャツがそう云いましたぜ。
それが勘五郎なら赤シャツは嘘つきの法螺右衛門《ほらえもん》だ」
「教頭さんが、そうお云いるのはもっともじゃが、古賀さんのお往《い》きともないのももっともぞなもし」
「そんなら両方もっともなんですね。
お婆さんは公平でいい。
一体どういう訳なんですい」
「今朝古賀のお母さんが見えて、だんだん訳をお話したがなもし」
「どんな訳をお話したんです」
「あそこもお父さんがお亡くなりてから、あたし達が思うほど暮《くら》し向《むき》が豊かになうてお困りじゃけれ、お母さんが校長さんにお頼みて、もう四年も勤めているものじゃけれ、どうぞ毎月頂くものを、今少しふやしておくれんかてて、あなた」
「なるほど」