坊っちゃん - 【九】 - 《163》
芸者はあまり乱暴な声なので、あっけに取られて返事もしない。
山嵐は委細構わず、ステッキを持って来て、踏破千山万岳烟《ふみやぶるせんざんばんがくのけむり》と真中《まんなか》へ出て独りで隠《かく》し芸を演じている。
ところへ野だがすでに紀伊《き》の国を済まして、かっぽれを済まして、棚《たな》の達磨《だるま》さんを済して丸裸《まるはだか》の越中褌《えっちゅうふんどし》一つになって、棕梠箒《しゅろぼうき》を小脇に抱《か》い込んで、日清談判|破裂《はれつ》して……と座敷中練りあるき出した。
まるで気違《きちが》いだ。