坊っちゃん - 【一】 - 《20》
清の甥というのは存外結構な人である。
おれが行《ゆ》くたびに、居《お》りさえすれば、何くれと款待《もて》なしてくれた。
清はおれを前へ置いて、いろいろおれの自慢《じまん》を甥に聞かせた。
今に学校を卒業すると麹町辺へ屋敷を買って役所へ通うのだなどと吹聴《ふいちょう》した事もある。
独りで極《き》めて一人《ひとり》で喋舌《しゃべ》るから、こっちは困《こ》まって顔を赤くした。
それも一度や二度ではない。
折々おれが小さい時寝小便をした事まで持ち出すには閉口した。
甥は何と思って清の自慢を聞いていたか分らぬ。
ただ清は昔風《むかしふう》の女だから、自分とおれの関係を封建《ほうけん》時代の主従《しゅじゅう》のように考えていた。
自分の主人なら甥のためにも主人に相違ないと合点《がてん》したものらしい。
甥こそいい面《つら》の皮だ。