坊っちゃん - 【二】 - 《23》
船頭は真《ま》っ裸《ぱだか》に赤ふんどしをしめている。
野蛮《やばん》な所だ。
もっともこの熱さでは着物はきられまい。
日が強いので水がやに光る。
見つめていても眼《め》がくらむ。
事務員に聞いてみるとおれはここへ降りるのだそうだ。
見るところでは大森《おおもり》ぐらいな漁村だ。
人を馬鹿《ばか》にしていらあ、こんな所に我慢《がまん》が出来るものかと思ったが仕方がない。
威勢《いせい》よく一番に飛び込んだ。
続《つ》づいて五六人は乗ったろう。
外に大きな箱《はこ》を四つばかり積み込んで赤ふんは岸へ漕ぎ戻《もど》して来た。
陸《おか》へ着いた時も、いの一番に飛び上がって、いきなり、磯《いそ》に立っていた鼻たれ小僧《こぞう》をつらまえて中学校はどこだと聞いた。
小僧はぼんやりして、知らんがの、と云った。
気の利かぬ田舎《いなか》ものだ。
猫《ねこ》の額ほどな町内の癖《くせ》に、中学校のありかも知らぬ奴《やつ》があるものか。
ところへ妙《みょう》な筒《つつ》っぽうを着た男がきて、こっちへ来いと云うから、尾《つ》いて行ったら、港屋とか云う宿屋へ連れて来た。
やな女が声を揃《そろ》えてお上がりなさいと云うので、上がるのがいやになった。
門口へ立ったなり中学校を教えろと云ったら、中学校はこれから汽車で二里ばかり行かなくっちゃいけないと聞いて、なお上がるのがいやになった。
おれは、筒っぽうを着た男から、おれの革鞄《かばん》を二つ引きたくって、のそのそあるき出した。
宿屋のものは変な顔をしていた。