坊っちゃん - 【二】 - 《25》
熱くって居られやしない。
こんな部屋はいやだと云ったらあいにくみんな塞《ふさ》がっておりますからと云いながら革鞄を抛《ほう》り出したまま出て行った。
仕方がないから部屋の中へはいって汗《あせ》をかいて我慢《がまん》していた。
やがて湯に入れと云うから、ざぶりと飛び込んで、すぐ上がった。
帰りがけに覗《のぞ》いてみると涼《すず》しそうな部屋がたくさん空いている。
失敬な奴だ。
嘘《うそ》をつきゃあがった。
それから下女が膳《ぜん》を持って来た。
部屋は熱《あ》つかったが、飯は下宿のよりも大分|旨《うま》かった。
給仕をしながら下女がどちらからおいでになりましたと聞くから、東京から来たと答えた。
すると東京はよい所でございましょうと云ったから当《あた》り前だと答えてやった。
膳を下げた下女が台所へいった時分、大きな笑い声が聞《きこ》えた。
くだらないから、すぐ寝《ね》たが、なかなか寝られない。
熱いばかりではない。
騒々《そうぞう》しい。
下宿の五倍ぐらいやかましい。
うとうとしたら清《きよ》の夢《ゆめ》を見た。
清が越後《えちご》の笹飴《ささあめ》を笹ぐるみ、むしゃむしゃ食っている。
笹は毒だからよしたらよかろうと云うと、いえこの笹がお薬でございますと云《い》って旨そうに食っている。
おれがあきれ返って大きな口を開いてハハハハと笑ったら眼が覚めた。
下女が雨戸を明けている。
相変らず空の底が突《つ》き抜《ぬ》けたような天気だ。