坊っちゃん - 【五】 - 《58》
そうですね、まるで露西亜の文学者ですねと野だはすぐ賛成しやがる。
ゴルキが露西亜の文学者で、丸木が芝《しば》の写真師で、米のなる木が命の親だろう。
一体この赤シャツはわるい癖《くせ》だ。
誰《だれ》を捕《つら》まえても片仮名の唐人《とうじん》の名を並べたがる。
人にはそれぞれ専門があったものだ。
おれのような数学の教師にゴルキだか車力《しゃりき》だか見当がつくものか、少しは遠慮《えんりょ》するがいい。
云《い》うならフランクリンの自伝だとかプッシング、ツー、ゼ、フロントだとか、おれでも知ってる名を使うがいい。
赤シャツは時々帝国文学とかいう真赤《まっか》な雑誌を学校へ持って来て難有《ありがた》そうに読んでいる。
山嵐《やまあらし》に聞いてみたら、赤シャツの片仮名はみんなあの雑誌から出るんだそうだ。
帝国文学も罪な雑誌だ。