坊っちゃん - 【六】 - 《80》
控所に居た連中は何事が始まったかと思って、みんな、おれと山嵐の方を見て、顋《あご》を長くしてぼんやりしている。
おれは、別に恥《は》ずかしい事をした覚えはないんだから、立ち上がりながら、部屋中一通り見巡《みま》わしてやった。
みんなが驚《おど》ろいてるなかに野だだけは面白そうに笑っていた。
おれの大きな眼《め》が、貴様も喧嘩をするつもりかと云う権幕で、野だの干瓢《かんぴょう》づらを射貫《いぬ》いた時に、野だは突然《とつぜん》真面目な顔をして、大いにつつしんだ。
少し怖《こ》わかったと見える。
そのうち喇叭が鳴る。
山嵐もおれも喧嘩を中止して教場へ出た。