坊っちゃん - 【九】 - 《141》
「おれは江戸《えど》っ子だ」
「うん、江戸っ子か、道理で負け惜しみが強いと思った」
「きみはどこだ」
「僕は会津《あいづ》だ」
「会津っぽか、強情な訳だ。
今日の送別会へ行くのかい」
「行くとも、君は?」
「おれは無論行くんだ。
古賀さんが立つ時は、浜《はま》まで見送りに行こうと思ってるくらいだ」
「送別会は面白いぜ、出て見たまえ。
今日は大いに飲むつもりだ」
「勝手に飲むがいい。
おれは肴《さかな》を食ったら、すぐ帰る。
酒なんか飲む奴は馬鹿《ばか》だ」
「君はすぐ喧嘩《けんか》を吹《ふ》き懸《か》ける男だ。
なるほど江戸っ子の軽跳《けいちょう》な風を、よく、あらわしてる」
「何でもいい、送別会へ行く前にちょっとおれのうちへお寄り、話《はな》しがあるから」