坊っちゃん - 【九】 - 《142》
おれはこの間から、うらなり君の顔を見る度に気の毒でたまらなかったが、いよいよ送別の今日となったら、何だか憐《あわ》れっぽくって、出来る事なら、おれが代りに行ってやりたい様な気がしだした。
それで送別会の席上で、大いに演説でもしてその行を盛《さかん》にしてやりたいと思うのだが、おれのべらんめえ調子じゃ、到底《とうてい》物にならないから、大きな声を出す山嵐を雇《やと》って、一番赤シャツの荒肝《あらぎも》を挫《ひし》いでやろうと考え付いたから、わざわざ山嵐を呼んだのである。