坊っちゃん - 【九】 - 《158》
おれも少し驚《おど》ろいたが、壁際へ圧し付けられているんだから、じっとしてただ見ていた。
すると今まで床柱《とこばしら》へもたれて例の琥珀《こはく》のパイプを自慢《じまん》そうに啣《くわ》えていた、赤シャツが急に起《た》って、座敷を出にかかった。
向《むこ》うからはいって来た芸者の一人が、行き違いながら、笑って挨拶をした。
その一人は一番若くて一番奇麗な奴だ。
遠くで聞《きこ》えなかったが、おや今晩はぐらい云ったらしい。
赤シャツは知らん顔をして出て行ったぎり、顔を出さなかった。
大方校長のあとを追懸《おいか》けて帰ったんだろう。